- 2024年8月4日18:20:19更新
闇に咲く花 〜小説の中の着物〜 泉ゆたか『髪結百花』
小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、泉ゆたか著『髪結百花』。“髪を結う”という行為には、儀式めいたところがある。自らを奮い立たせる。
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着物をまなぶ
「着物をまなぶ」というテーマにて、着物に関する様々な《まなび》のコラムをお届けします。
闇に咲く花 〜小説の中の着物〜 泉ゆたか『髪結百花』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三十九夜
今宵の一冊は、泉ゆたか著『髪結百花』。
主人公は、見染められて“玉の輿”と言われるような裕福な商家に嫁ぎながら、遊女に夫を奪われ離縁となった梅。
嫁ぐ前は素人(町娘など一般女性)の髪は手掛けていても、玄人(遊女)の髪には触れたことがなかった梅ですが、離縁されて生家に戻り、吉原で、腕も気働きも優れた髪結い職人として信頼され、多くの上級遊女の髪を任されている母アサの元で、やり切れない想いを抱えながらも、吉原の中でも名高い大見世「大文字屋」の最高位の遊女である紀ノ川をはじめとする遊女たちとの関わりを深めていきます。
禿島田かむろしまだ、しゃぐま、伊達兵庫だてひょうごに灯籠鬢ことうろうびん、春信風島田に銀杏返し、丸髷、文金高島田……
聞いたことがあるものもないものも、次々に繰り出される専門用語に、耳慣れない方はちょっとびっくりしてしまうかもしれないけれど、人として、ひとりのプロフェッショナル―髪結い職人―として、それぞれに向き合い、完璧とはいかないかもしれないけれど真摯に立ち向かおうとするお梅の姿を追っていけば自ずとそのかたちが見えてきます。
小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。
“髪を結う”という行為には、儀式めいたところがある。自らを奮い立たせる。スイッチを入れる。大切な何かに臨むための“戦闘態勢”を整える。
一寸の隙も気の緩みもなく、迸るような気迫を纏ってその身を任せる花魁紀ノ川と、全身全霊を込めて立ち向かう髪結い職人の梅。
“苦界”吉原の光も影も、目を逸らすことなく真っ直ぐ見つめ、結び、受け止めて生きる。それぞれの覚悟を胸に……
小説をモチーフにした素敵なスタイリングのお話…
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着物スタイリスト 秋月洋子
2003年にフリーランスのきものスタイリスト・もの書きとして独立後、雑誌や書籍でのスタイリングと記事執筆のほか、テレビドラマ、CM、映画等でのスタイリング、着付を手がける。着物まわりの小物ブランド『れん』、オリジナルデザインの帯留『九九』など商品プロデュースの他、書家としての側面も持ち自筆の着物や帯のデザインも手掛けている。
著書に『大人のおでかけゆかたコーディネート帖』、『おでかけ着物歳時記』(小学館)、『大人のゆかたスタイルブック』(講談社)などがある。
この記事のライター
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