- 2024年12月29日15:24:30更新
陽の当たる、その裏で 〜小説の中の着物〜近藤史恵 『散りしかたみに』
小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、近藤史恵著『散りしかたみに』。
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着物をまなぶ
「着物をまなぶ」というテーマにて、着物に関する様々な《まなび》のコラムをお届けします。
陽の当たる、その裏で 〜小説の中の着物〜近藤史恵 『散りしかたみに』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十四夜

今宵の一冊は、近藤史恵著『散りしかたみに』。
歌舞伎の家の生まれでもなく、大学のときにふと吸い込まれるように入った歌舞伎座の幕見席で歌舞伎に魅入られ、それまでのすべてを捨ててこの道を選び取った女形おんながたの大部屋役者、瀬川小菊。
小菊の大学時代の友人で、探偵事務所を営む今泉文吾。その助手、山本少年。この3人が、歌舞伎座を舞台に起こるさまざまな事件の解明に挑む物語。
シリーズ2作目の本作ですが、小菊の師匠、まもなく人間国宝になろうかという名女形おんながた瀬川菊花の依頼を発端として物語は進みます。
作中において今月上演されているのは『本朝廿四孝ほんちょうにじゅうしこう』のうちの『十種香じゅしゅこう』で、菊花は八重垣姫を演じている。しかし、その芝居の筋とはまったく関係がないにも関わらず、毎日決まったタイミングでひらりひらりと降ってくる一枚の桜の花びら。
その謎を追う中で、明らかにされる真実とは……?

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。
蠱惑的なファム・ファタルー滝夜叉姫になぞらえられる虹子ーの、作中に描かれたその着こなしは、動くたびに素足が見えるほどの身幅の狭さや動きのある長い袂、下ろしたままの髪など、細部までも含めてその雰囲気を作り上げている。
着物は、人が着て動いて初めてその真の魅力を発揮する、と改めて思う瞬間。

着物スタイリスト 秋月洋子
2003年にフリーランスのきものスタイリスト・もの書きとして独立後、雑誌や書籍でのスタイリングと記事執筆のほか、テレビドラマ、CM、映画等でのスタイリング、着付を手がける。着物まわりの小物ブランド『れん』、オリジナルデザインの帯留『九九』など商品プロデュースの他、書家としての側面も持ち自筆の着物や帯のデザインも手掛けている。
著書に『大人のおでかけゆかたコーディネート帖』、『おでかけ着物歳時記』(小学館)、『大人のゆかたスタイルブック』(講談社)などがある。
この記事のライター
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