• 2023年9月30日22:56:06更新

掌を充たすものー装幀という芸術ー 〜小説の中の着物〜 邦枝完二著『おせん』

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、邦枝完二著『おせん』。
本書によって完成されたと言われる“雪岱調”と小気味良い江戸の空気、そんな贅沢な時間をどうぞ。

着物をまなぶ

「着物をまなぶ」というテーマにて、着物に関する様々な《まなび》のコラムをお届けします。

掌(たなごころ)を充たすものー装幀という芸術ー 〜小説の中の着物〜 邦枝完二著『おせん』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第二十九夜

今宵の一冊は、邦枝完二著『おせん』。

浮世絵師 鈴木春信の美人画のモデルとなり、明和の三大美人と称された傘森おせん(鍵屋お仙とも)と、その幼馴染で当時人気絶頂の歌舞伎役者、2代目 瀬川菊之丞との悲恋を描いた物語です。

大名の姫君から吉原の遊女千人を見渡しても二人とない、傘森稲荷境内に立ち並ぶ水茶屋の娘たちが三十人束になっても、縹緻きりょうどころか眉ひとつ及ばない、とまで描写される「鍵屋」の看板娘おせん。

そのおせんが恋慕う瀬川菊之丞は、その俳号である“路考(ろこう)”を冠した路考茶、路考結び、路考髷と、することなすこと大流行りとなる当代一の人気女形。

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。

手軽に大量に持ち運べて、どこででも読める電子書籍は便利だけれど、やはり捨て難いのは手触りやその重みすらも含めたまるごとの世界観。本書によって完成されたと言われる“雪岱調”と小気味良い江戸の空気、そんな贅沢な時間をどうぞ。

小説をモチーフにした素敵なスタイリングのお話…
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