• 2025年4月6日21:25:48更新

紫色の白昼夢 〜小説の中の着物〜 泉鏡花『艶書』

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、泉鏡花著『艶書』。

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紫色の白昼夢 〜小説の中の着物〜 泉鏡花『艶書』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十五夜

今宵の一冊は、泉鏡花著『艶書』。

男が声をかけたのは、病院へ見舞いに来たらしい、大輪の華やかな春の花々を携えた女ひと。流れるような、詠うような流麗な文体でそこに描き出されるのは、春らしく明るい陽射しに照らされた景色……にも関わらず、ふたりの会話が進むに連れて徐々に滲み出す不穏な気配。

どこまでが現実でどこからが妄想なのか……それすらも定かではないけれど、そのじわじわと蝕むような毒というか狂気の気配は妙にリアル。そのいちばんの要因は、数少ない登場人物の風貌や装いの濃やかな描写にあるのではないかと思えます。

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。

音にした際のリズムや響きが何とも言えず心地良い、その独特の文体により、どこかスローモーションのようにも思える優雅な動きが実像を伴って脳内で再現される。百合が、薔薇が、菖蒲が散り、白い足袋を染める……それはまさに、紫色の白昼夢。

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